太田述正コラム#0429(2004.8.2)
<没落する米国(その4)>

(5)ソフトパワーの陰り
長期的観点からより懸念されるのは、米国のソフトパワーに陰りが見えることです。

強引なイラク戦開戦、イラク占領後の失態、ワールドコム事件等米国企業をめぐる不祥事の頻発、京都議定書等の国際条約の回避、更にはアブグレイブ虐待事件などによって、世界の多くの人々、特に発展途上諸国の人々は米国の高い技術と経済力(平均的生活水準)ないし軍事力は認めつつも、もはや米国を自由・民主主義の旗手とはみなさなくなってしまいました。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/06/20/opinion/20FRIE.html(6月20日アクセス)による。)
このことと無関係ではないと思われますが、今年5月に発表された調査結果によれば、調査を開始した1998年以来初めて昨2003年、米国のブランド品を好む外国の人々の割合が減り、使う人も減少しました。他方、米国以外の国のブランド品については、変化は見られません。
例えば、米国のブランド品に「信頼感(trust)」を寄せる人々の割合ですが、コカコーラは55%から52%へ、マクドナルドは36%から33%へ、内規は56%から53%へ、マイクロソフトは45%から39%へと減少しています。また、「正直さ(honesty)」を感じる人々の割合は、コカコーラが18%から15%へ、マクドナルドが19%から14%へ、ナイキが14%から11%へ、マイクロソフトが18%から12%へと減少しています。そして、米国のブランド品を使っている人々の割合は30%から27%に減ってしまいました。他方、米国以外のブランド品を使っている人々の割合は24%で変わりませんでした。
このような消費者の態度は、米国そのものに対する見方にも影響を与えています。
「正直さ」が米国の文化的価値であると考える消費者は、仏・伊・独・スペイン・トルコで5割を切っており、独では31%でした。サウディでは23%です。
米国と文化的価値を共有していると考える消費者は、ベネズエラ・台湾・フィリピン・ブラジル・オーストラリアでは75%を超えているものの、英では65%、伊と仏では63%、独では55%でしかありません。
(以上、http://media.guardian.co.uk/site/story/0,14173,1214114,00.html(5月11日アクセス)による。)
このように見てくると、米ハーバード大学のジョセフ・ナイ(Joseph Nye)教授の造語である「ハードパワー」と「ソフトパワー」を用いれば、米国は、経済力や軍事力というハードパワーは依然健在だけれど、ソフトパワーには陰りが見えている、ということになります。
これはアルカーイダ系イスラム教テロリスト達の挑発に米国が乗ってしまった結果、テロリスト達の思惑通りに事態が進行していることを意味するのでしょうか。
 必ずしもそうではなさそうです。
 既にアイゼンハワー米大統領が退任するにあたって、もっと国防費を削って海外広報庁(US Information Agency)に回すべきだったと言っています。
 特に東西冷戦が終わってからの海外広報予算の縮小には甚だしいものがあります。
 いまや、米国の国務省の海外広報予算と米国のすべての対外放送の予算を足し合わせても10億ドルちょっとで、経済規模で五分の一でしかない英仏のそれぞれの予算と同規模でしかありません。
10億ドルちょっとというと、国防費の400分の一でしかありません。つまり、米国はソフトパワーにハードパワーの400分の一しか使っていないことになります。
これではせっかくのハードパワーが活かせない、とナイは力説しています。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/04/26/2003138176(4月27日アクセス)による。)

以上から、米国のソフトパワーの減退は、かねてから潜在的に進行しており、それが対テロ戦争等のやり方等のブッシュ政権の不手際により一挙に顕在化した、と考えられます。

(完)