太田述正コラム#8821(2016.12.29)
<ロシアに振り回される米国(その1)>(2017.4.14公開)
1 始めに
米フォーリンポリシー誌電子版が、12月22~24日の3日間にわたって、連続してロシアを取り上げたので、適宜、その内容の一部をご紹介し、私のコメントを付すことにしました。
2 http://foreignpolicy.com/2016/12/22/the-unlearned-lessons-from-the-collapse-of-the-soviet-union/ (12月23日アクセス)より
(1)Serhii Plokhy:The Soviet Union is still collapsing.
(筆者は、ハーヴァード大歴史学教授でウクライナ研究所所長。)
「20世紀は、諸帝国によって構築され統治された世界の終焉を目撃した。
すなわち、第一次世界大戦の後で倒壊したところの、オーストリア=ハンガリー及びオスマントルコ帝国、から、第二次世界大戦の後に解体したところの、英国及びフランスの両帝国、に至る・・。
⇒「広義の欧州における諸帝国」、と筆者は限定的に記すべきでした。
清/中華民国/中共は現在でも帝国ですし、日本だって、20世紀前半は帝国だったからです。(太田)
この何十年にも及ぶプロセスは、1991年のソ連の崩壊によって完結した。
ソ連は、ロシア帝国の強力な後継者として、1920年代初にボルシェヴィキによって再び縫い合わせられたものの、その70年後に冷戦の最終段階において崩壊した。・・・
米国の独立の確保におけるフランスの役割であれ、ギリシャの国家としての地位<の確立>に係る闘争におけるロシアと英国の関与であれ、或いは、東欧の元ワルシャワ条約諸国の熱望を支援する米国の役割であれ、強い国際的支援なくしては過去の諸帝国の廃墟群から安定した諸国家が出現した試しはまずない。
<つまり、>帝国後のいかなる決着に関しても、そのカギとなるのは外部勢力の役割だったし、今後ともそうだろう。
現在の状況を見るに、ウクライナや不安定なソ連後の空間における他の諸部分における紛争を解決するために米国とそのNATO同盟諸国が演じることができる役割はどれだけ大げさに言っても言い過ぎではない。
最後の欧州帝国の遺産を受け継いでいるソ連の倒壊は、まだその途上なのだ。」
⇒米国の知識人たる筆者は、ロシアもまた、分解、崩壊しなければならず、その実現のために米国は関与をしていかなければならない、と言っているに等しいのであって、これでは、ロシア人達が米国やNATOを敵視するのは当然ではないか、という感を深くします。(太田)
(2)Bill Browder:Abandonment has consequences.
(筆者は、ロシアがらみの投資会社CEO等。)
「不幸なことに、欧米がロシアを無視している間に、それは、静かに、ソ連よりももっと危険な何物かへと突然変異していった。
⇒マルクスレーニン主義のような、普遍性を売り物にするイデオロギーとは無縁の、しかも、ソ連当時に比べて、相対的に、経済力が激衰し、軍事力も大幅に弱体化したロシアが、「ソ連よりももっと危険な何物か」であるわけがありません。(太田)
まともな諸法や諸制度がない中で、22人のロシア人寡頭支配者達(oligarchs)がこの国の富の40%を国から盗んだ。
残りの1億5,000万人のロシア人達は、窮状(destituion)と貧困の中に取り残され、男性達の平均寿命は65歳から57歳へと落ちた。
教授達はタクシーの運転手達として生計を立てなければならなかったし、看護婦達は売春婦達になった。
ロシア社会の基礎となる構造全体が壊れてしまったのだ。・・・
その全ての不正義が平均的ロシア人達からすれば憤怒させるものであり、彼らは秩序を回復するために強力な人物を求めた。
⇒何がなくても強力な専制的指導者を求めるのが、タタールの軛症候群に苛まれているロシア人の通性であることからして、屁理屈をこねるな、と言いたくなります。(大田)
1999年に彼らは、一人を見つけた。
ウラディミール・プーチン(Vladimir Putin)だ。
しかし、プーチンは、秩序を回復するというよりは、22人の寡頭支配者達を、頂点にいる自分一人でもって置き換えた。
私は、彼が権力の座に18年間いるうちに、ロシアの人々から2000億ドル盗んだと推計している。・・・
⇒嘘つけとまでは言わないけれど、典拠を示せ、とは言いたいですね。(太田)
石油ブームが下火になると、普通のロシア人達の苦しみは再開し、人々は、2011年と2012年に彼の統治に抗議するために諸街頭へと繰り出した。
プーチンの、怒れる民衆達(population)に対処する手法は、標準的な独裁者の作戦計画書(playbook)から来ているものだ。
すなわち、人々が自分に怒り狂っているのなら、諸戦争を始めよ、だ。
これこそが、彼がウクライナに侵攻した背後にある真の理由なのであり、それは驚くほどうまく機能した。
すなわち、プーチンの支持率は、数か月の間に、65%から89%へと鰻登りに上昇した。・・・
⇒支持率が65%もあったのなら、「人々が・・・怒り狂っている」どころか、その正反対だったわけではありませんか。
そもそも、ここでも、タタールの軛症候群に照らせば、プーチンは、当然のことながら、ロシアの領土や勢力圏の拡大がロシア最高指導者の使命であることを自覚しており、強力な専制的指導者として認知されるに至った時点で、この使命の遂行に乗り出した、ということでしかないでしょう。
筆者は果たして精神は確かなのか、というレベルです。(太田)
・・・諸経済制裁は、石油諸価格の暴落と相俟って、更なる経済的苦境へと導き、それは、ロシアの人々を一層怒らせた。
そこで、プーチンはもう一つの戦争を始めた。
今回はシリアで・・。・・・
ソ連の崩壊から25年の後、欧米は、依然としてクレムリンからの威嚇的(menacing)脅威に直面している。・・・
欧米にいる我々は、我々の頭を砂に突っ込んだまま、ロシアにおける盗賊政治を無視し続けることはできない。
なぜなら、その諸帰結は大災厄的だからだ。」
⇒プーチンとてNATO加盟国に手出しはしないはずです。
(だからこそ、NATO加盟国の拡大にロシアはヒステリックに反対してきたわけです。)
軍事力が、そして経済力に至っては全く、昔日の面影がないロシアなど、北朝鮮に毛が生えた程度の存在に過ぎません。
「大災厄的だ」とは、余りに大げさで失笑するほかありませんね。(大田)
(続く)
ロシアに振り回される米国(その1)
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