太田述正コラム#8841(2017.1.8)
<ロシアに振り回される米国(その8)>(2017.4.24公開)
 (10)http://www.slate.com/articles/news_and_politics/cover_story/2017/01/how_vladimir_putin_engineered_russia_s_return_to_global_power.html (1月7日アクセス)より
 「ロシア人達は、我々を変えることも顕著に弱体化することもできない」、とバラク・オバマは、彼の<昨年>12月16日の大統領としての記者会見の中で語った。
 「彼らの国はより小さい国となり、彼らの国はより弱い国ともなり、彼らの経済は石油と天然ガスと諸武器とを除いて、誰かが買いたいと思ういかなるものも生産していない。彼らは新機軸を生むことができない。しかし、もし我々が自身が何であるかを見失ったりすれば、彼らは我々に影響を及ぼすことができるし、我々が自身の諸価値を放棄したりしても、彼らは我々に影響を及ぼすことができる」、と。・・・
 <思い起こせば、彼は、既に、>2014年、東部ウクライナで戦争が激しく行われていた頃、エコノミスト誌のインタビューの中で、「視野を見失わないことが重要だと私は強く思う。ロシアは何も作らない。移民達がモスクワへと機会を求めて押し寄せることもない。ロシア人の男性の平均寿命は60歳前後だ。その人口は減少しつつある。」<と語っている。>・・・
 <ところが、>あらゆる期待に反し、まさに、オバマ大統領がロシアによる米大統領選挙への介入に対する報復のための広範囲に及ぶ諸制裁を表明したところの、先週に至るまで、ロシアとの関係が、オバマ政権の外交政策を支配してきた。
 それは、彼のそれまでの諸言及の陽気な調子を裏切るものだった。
 再起した超大国の関係は、次期大統領の任期中も支配的なものとなる可能性が大であり、それがどのような形のものになるかを、我々は模索し始めたばかりだ。・・・
 若干の政治学者達は、戦争と危機の諸時代においては、ロシア人達は、他の諸国の市民達に比べて、より強く「国旗の周りに結集する」状況を呈する、と喝破してきた。
 <英エコノミスト誌のロシアの編集員である、アルカディ(Arkacy)・>オストロフスキー(Ostrovsky)<
http://mediadirectory.economist.com/people/arkady-ostrovsky/ >は、ロシアは、「理念中心的な国(idea-centric country)」である、と主張している。
 ロシアの歴史的宿命(destiny)と文化的アイデンティティといった、抽象的諸概念、が、政治において、生計の資を得る政治を阻害してまで、とりわけ重要な役割を演じるのである、と。・・・」
⇒ロシアの「歴史的宿命」が「領域・勢力圏拡大衝動」、「文化的アイデンティティ」が「専制政治」、のつもりであるとすれば、オストロフスキーの言う通りです。
 さて、そのロシア評だけとっても、改めて、オバマの凄さが身に沁みるというものです。
 オバマは、米国の歴代大統領の中ではもちろん、現在の、米知識層の中でも飛びぬけて優秀な人物である、と私は前々から考えています。
 ご紹介してきたごとく、最近のプーチンの「活躍」に浮足立っている米知識層と比較してご覧なさい。
 次期大統領のトランプの知性ときたら、衆目の一致するところ、平均的米国人に毛が生えた程度ですが、私見では、その動物的カンでもって多くの分野でオバマと同じ結論に到達しているようです。
 前にも示唆したことがありますが、私は、オバマは、そんなトランプに後事を託した、と見ているのです。
 もとより、サンダースに後事を託したいのは山々だけれど、上下両院とも共和党優位となることが予想された以上、サンダースがやろうとすることがことごとく議会の反対で挫折することは必至なので、次善の人物として、(クリントンではなく、)トランプを選んだ、と・・。
 例えば、選挙終盤で、クリントンの足を決定的に引っ張ったのは、コミーFBI長官が議会に提出した書簡であった
https://en.wikipedia.org/wiki/James_Comey
ことはご記憶に新しいと思いますが、FBIが、国家情報長官(Director of National Intelligence)、及び、司法長官、そしてどちらの系統からもオバマ、の指揮監督を受ける立場である
https://en.wikipedia.org/wiki/Director_of_the_Federal_Bureau_of_Investigation
ことから、この書簡の提出はオバマの承認を得たはずだ、と私は想像しています。
 (コミーをFBI長官に指名したのはオバマであった
https://en.wikipedia.org/wiki/James_Comey 前掲
ことから、オバマ自身がコミーにこの書簡の提出を密かに促した可能性すらあります。)
 で、「トランプ米次期大統領は<米国時間の>7日、ツイッターに「ロシアと良好な関係を持つのは良いことだ。悪いことだと言うのはバカか愚か者だけだ」と書き込んだ」
http://www.yomiuri.co.jp/world/20170108-OYT1T50054.html?from=ytop_main2
ところ、これは、オバマと全く同じロシア観に立って、あがいているだけのプーチンをせいぜいおだてて利用してやろう、そうすることで、ロシアを更に疲弊させてやろう、という魂胆だ、と私は見ているのです。
(完)