太田述正コラム#8921(2017.2.17)
<米帝国主義の生誕(幕間)(その2)>(2017.6.3公開)
4 お断り
 Robert Kaplan, Earning the Rockies: How Geography Shapes America’s Role in the World については、「米帝国主義の生誕(幕間)」(コラム#8875)で、書評
A:https://www.nytimes.com/2017/01/24/books/review/earning-the-rockies-robert-d-kaplan.html?_r=0 
をもとにご紹介済みですが、その後、下掲のB~Dの書評が出ているので、それらの抜き刷りを用いて、更に紹介を続けたいと思います。
B:https://www.ft.com/content/db84bd6a-e243-11e6-9645-c9357a75844a
(1月27日アクセス)
C:http://www.slate.com/articles/arts/books/2017/02/earning_the_rockies_by_robert_d_kaplan_reviewed.html
(2月13日アクセス)
D:http://www.dallasnews.com/arts/books/2017/01/20/robert-d-kaplan-earning-the-rockies-review
5 米帝国主義
 (1)その性格
 「・・・著者カプランは、「米国人達は、彼らの民主主義、及び、(非プロテスタントの移民者達も全員無意識的に採用しているところの、唯一神の信仰(faith)を勤労と結合したところの)彼らのプロテスタント信条(creed)、の故だけでなく、彼らがたまたま住むこととなった場所の故にも、偉大な人々なのだ」、と主張する。・・・
⇒著者は、原理主義的キリスト教の一環とも言えるところのプロテスタンティズムそのものが偉大である、と宣言しているに等しいわけですが、これは、彼を含む米国人達が「全員」、原理主義的イスラム教の偉大さを信じて疑わないIsis構成員達と同様の、時代錯誤者達である、と宣言しているに等しい、ということに、お目出度くも、著者もこの書評子も、全く気付いていない、というわけです。
 あえて、繰り返しますが、こんなエセ識者達に率いられてきたところの米国人達が、Isis構成員達より比較にならないくらいおぞましい存在であるということは、前者が、後者よりも、はるかに長期間にわたって、ほぼ毎年、はるかに多数の人々の殺戮を続けてきたことからも明らかでしょう。(太田)
 西部の広大な風景の中に入植することによって、米国は、いかに全球的大国になるかを学んだ、と著者は主張する。
 20世紀初の歴史学者のバーナード・デボト(Bernard DeVoto)<(注1)>の著作に大幅に拠りつつ、著者は、諸戦争と原住民達の絶滅を含め、米国の西部への入植、がこの若き米国にとって精神的経験となった、と主張するのだ。
 (注1)Bernard Augustine DeVoto(1897~1955年)。米国の歴史学者で著述家。米西部史専門。ユタ大を経てハーヴァード大卒。トウェインの権威でもある。ピュリッツァー賞受賞。
https://en.wikipedia.org/wiki/Bernard_DeVoto
 「大平原(Great Plains)とロッキー山脈(Rockies)の征服は、ナチスと日本を敗北させるために必要な前奏」だった、とデボトを、彼が直感的に理解していたとして引用する。
⇒ここでも、ナチスと日本を同一視するなど、無知の極みであることに、著者もこの書評子も全く気付いていないわけであり、オバマは別格として、トランプすら、これらの典型的な米識者達よりも、はるかにまともな感覚を身に着けている、と言うべきでしょうね。(太田)
 彼の明白な使命(Manifest Destiny)についての認識は、デボトのそれよりも複雑だ。
 すなわち、彼は、拡大の衝動を擁護すると共に、原住民達に対する底知れぬ<ひどい>扱い、及び、米墨戦争の時の愛国的戦争狂(jinngoism)に対して、カウボーイ・自作農場の神秘的雰囲気が与えた道徳的口実を嘆くのだ。
 現在の政治的監察と層状の歴史的諸典拠の魅惑的なごたまぜを用いて、彼は、フロンティアの消滅(closing)が、米西戦争の前口上であって、この戦争によって、ラテンアメリカが米国の排他的影響圏になったことを彼は示す。
 この19世紀の歴史から、彼は、アンドリュー・ジャクソン(Andrew Jackson)を、トランプの国・・共和党の国(red-state)の核心地域・・にとっての戦闘的霊感<の源泉>として抽出し、かつ、沿岸部の民主党の国の住民達(blue-staters)が、民主主義の完全性、強力な国家、そして、国際法の重要性、という、ジェファーソン的、ハミルトン的、ウィルソン的、な諸信条に賛同している、と主張する。
⇒ここでもまた、著者もこの書評子も、(余り教会に行かず、そもそも、特定の宗派に属していなかった、キリスト教に対する姿勢といい、黒人に対する差別意識を全く持たず奴隷制反対運動を行ったことといい、ハミルトン
https://en.wikipedia.org/wiki/Alexander_Hamilton
は別として、)単に人種主義者であっただけでなく、偽善者でもあったところの、ジェファーソンやウィルソン(コラム#省略)、を、好意的に持ち出すなど、言語道断です。
(続く)