太田述正コラム#8929(2017.2.21)
<映画評論49:ザ・コンサルタント(その1)>(2017.6.7公開)
1 始めに
表記の映画ですが、余り当たっていないためか、日本語ウィキペディアの解説は、「『ザ・コンサルタント』(原題: The Accountant)は、2016年製作の<米>国のアクション映画。ベン・アフレック主演。田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフにある日、大企業からの財務調査の依頼が舞い込む。調査をしたウルフは重大な不正を見つけるが、その依頼は何故か突然一方的に打ち切られてしまい、さらにその日から、ウルフは何者かに命を狙われるようになる。実はウルフは、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切り、年収10億円を稼ぎ出す命中率100%のスナイパーという、もう一つの顔があったのだ。」
A:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%88
でオシマイです。
せめて、主人公が自閉症だ、
B:https://en.wikipedia.org/wiki/The_Accountant_(2016_film)
ということくらいは書いて欲しかったですが・・。
2 この映画の背景
この映画の背景なのですが、下掲を読んでみてください。↓
「・・・英米の金融センターと情報機関に近い場所、ロンドン、ニューヨーク、ワシントンに・・・ビジネスインテリジェンス産業<が>・・・勃興し<ている。>・・・
ロンドンのハクルートやニューヨークのベラシティーといったコンサルティング会社の専門分野<は、>・・・インテリジェンス(機密情報)<の収集だ。>・・・
この仕事には魅力的、神秘的な雰囲気がある――スパイや弁護士が望むかもしれない第2のキャリアだ――が市場はニッチ<であり、>・・・極めて高額な機密情報の買い手は限られている・・・
<しかし、>ビジネスインテリジェンスと呼ばれるものの大部分は、実はデューデリジェンス(資産査定)<なの>だ・・・
2001年の米国の愛国者法などのマネーロンダリング(資金洗浄)防止法は、事実確認の専門家という産業を丸ごと育んだ。
このような仕事を手掛けているのは英リスク管理最大手コントロール・リスクスや業界の草分け企業クロールをはじめとする多くのコンサルティング会社と大手会計事務所<だ>。
収入は大きいが、案件1件あたりの料金は低く、通常は商取引1件につき5000ポンド未満<なの>だ<が、>・・・巨額の利害がかかっており、紛争は何年も続くことから、クライアントは<トータルで>かなりの料金を払う傾向がある。・・・
多くの場合、・・・弁護士と法廷会計士のチームを起用すること<になる。>・・・
<つまり、>人間のインテリジェンス活動の役割は小さくなっている<のであり、>・・・数字は嘘をつかない<だけに、>会計士からの報告書のほうが、スパイの話より大きな害をもたらすのだ。・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO11927080Q7A120C1000000/?dg=1 (FT記事の転載)(1月23日アクセス)
ポイントは、広義のアングロサクソン世界では、もともと会計監査業務で活躍してきたところの会計士達が、今や、ビジネスインテリジェンス業務でも活躍していることです。
当然、「悪」の側においても、カウンター・ビジネスインテリジェンス面で数字を改竄(cook)したりビジネスインテリジェンス面で会計不祥事を暴いたりするにあたって、悪徳会計士が活躍していても不思議ではありません。
まさに、この映画の主人公は、このような意味での「悪」の側の会計士なのです。
(実は、主人公の属性はそれだけじゃあないのですが、そのことについては、後ほど・・。)
ところが、これまで何度も私が指摘してきた(コラム#省略)ように、資本主義社会ではない日本では、監査する側と監査を受ける側が基本的に同一なのですから、監査そのものも、会計士/監査法人に支払う報酬も、それぞれ、巨視的には、無駄業務、ムダ金、に過ぎないのであって、だからこそ、監査報酬は極めて安く設定されていますし、監査で会計上の不祥事が炙り出されるなんてことは、まずありえません。
ですから、会計士が活躍する、というシチュエーションなどは想像を絶しているところ、原題の『The Accountant(会計士)』が日本公開の際には『ザ・コンサルタント』に改題せざるをえなかった、と思われるのです。
日本では、コンサルタントなら、中小企業では特にそうですが、それなりに活躍していますからね。
中小企業診断士という、「中小」が付いてはいるけれど、一応コンサルタントの公的資格だってありますよね。
(但し、英語名はRegistered Management Consultantで、「中小」は付いていない)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%AD%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%A3%AB
そうは言っても、この映画の中では、主人公の「コンサル」内容が会計数字の話だけなので、この映画の日本語パンフレット(C)では、「会計コンサルタント」という苦肉の造語が使われていましたが、笑っちゃいましたね。
(続く)
映画評論49:ザ・コンサルタント(その1)
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