太田述正コラム#8935(2017.2.24)
<映画評論49:ザ・コンサルタント(その4)>(2017.6.10公開)
この映画で最も魅惑的なのは暴力だ。
主人公ウルフ(Wolff)は、<つる科の植物である>諸カンタループ(cantaloupes)を1マイル離れた所から撃ったり、(彼がある意味行っているところの、)諸控除額を列挙したりする時に見せるのと同様の興奮や情熱の欠如でもって悪い奴らを処分(dispatch)する。・・・
私が出席した試写会では、観衆は殺人場面ごとにくすくす笑っていた。
死者の山が築かれるわけで、無茶苦茶だが、この映画は暴力を称えてはいない。・・・
この自閉症の刺客は啓蒙された殺人者だからだ。」(三)
⇒この最後の一文は極めて重要であると私は考えている、ということを念頭に置いておいてください。(太田)
「イカれている(badass)刺客達や口当たりのよい洋平達が登場する諸映画は一杯ある・・多過ぎる、と言う人もいるかもしれない・・が、それらの大部分は、ある種の肉体的ないし知的な能力のポルノ(competence porn)だ。
リーアム・ニーソン(Liam Neeson)<(注8)>が悪い奴らをいかに容易く処分するかを見よ。
(注8)1952年~。「北アイルランド出身の<現在米国籍の>俳優。ニューヨーク在住。・・・<一流大学である、カトリック系の>クイーンズ大学ベルファストに入学するが、演劇に興味を持ち中退。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3
上掲に彼の出演映画が列挙されているので、主演した映画のうちのアクションものを参照されたい。
そうしない方がおかしいだろ。
だって、彼は特定の一連の技量を持ってるんだぜ。
これは、ショーン・コネリー(Sean Connery)がボンド(Bond)を演じて以来の定番(thing)であり、私には理解できる。
何かに秀でている誰かを眺めるのは愉快なものだからね。
しかし、ある所まで来ると、それは目新しさももっともらしさも失ってしまう。
お馴染みのボーン達、ステイサム達、いやさ、ジョン・シナ(John Cena)<(注9)>達、と、この映画の中でのベン・アフレックの配役の違いは、間違いなく、彼が、若干の諸分野では意外にも(freakishly)能力を発揮するけれど、同時に、<自閉症であることによるところの、>救いようもない間抜けでもある、という点だ。」(一)
(注9)1977年~。米国のプロレスラー、ラッパー、俳優、そしてバラエティ番組のホスト。マサチューセッツ州スプリングフィールド単科大学卒(運動生理学専攻)。
https://en.wikipedia.org/wiki/John_Cena
5 批判
「・・・<この映画を観るのは、>2時間にわたる、時間のちょっとした無駄だ。・・・」(十)
「主人公は、心理作戦兵士であった父によって育てられ、インドネシアのブンチャック・シラット(Pencak silat)<(注10)>の達人によって武術の訓練を受ける。」(一)
(注10)「オランダ(東インド会社)の<インドネシア>侵略に対して現地の住民が激しく抵抗したことからオランダ領東インド時代には反乱の火種になるとしてシラットはオランダ当局によって禁止され、この間シラットは秘密裏に行われた。・・・第二次大戦中に日本はインドネシアを占領したが、その際に白人からのアジア解放をうたう日本当局は逆にシラットを奨励した。さらに日本軍は簡潔で習得が容易な「近代シラット」とでもいうべき体系を作り、広める事でインドネシア人の戦闘能力を短期間に上げることを計画した。そのため日本当局はジャカルタに各流派の師範を集めて統一型の制定を依頼し、その結果12のジュルス(型)が制定され「プンチャック」(Pentjak)という教本にまとめられた。この時期には日本とインドネシアの武術家の交流も行われたという。
当初この体系はインドネシア人には不評であったが、「近代シラット」はその後意外な形で役立つ事となる。戦後、再びオランダがインドネシアを支配しようとすると、現地の人々は独立を求めて立ち上がった。このインドネシア独立戦争の際に「近代シラット」は短期間に独立軍兵士の戦闘能力を高め、結果としてインドネシアの独立に貢献した。この頃にインドネシア語の「プンチャック」とマレー語の「シラット」をあわせて「プンチャック・シラット」という言葉が生まれたという。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88
⇒前回の映画評コラム・シリーズ(コラム#8150~)で取り上げた「「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015)では、シラットの名手たちをギャング役として登場」(上掲)させた、というのですが、気が付きませんでした。
このように、このところ、米映画がブンチャック・シラットを取り上げ始めているのは、日本の空手や柔術、或いは、支那の武術
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%AD%A6%E8%A1%93
が、日本や支那の経済的離陸に伴い、米国人達にとっては神秘性が失われたために、依然として発展途上国であるところの東南アジア(インドネシア)の武術に目を付けた、ということだと思われます。要するにオリエンタリズムですね。
それにしても、こんなところにも、旧日本軍が正の遺産を残していたとは、うれしい驚きです。(太田)
「<米映画の>スーパーヒーロー達は、常に、東洋学的経路を東方にとり、彼らの畏怖を催させる特殊な諸能力(abilities)を学ぶときているのだ。」(十三)
「<もっとも、この映画が、>ハリウッド映画のアクションの定石(default)の<単なる>一つの変形(variation)に留まっている面があるのは、<主人公と>(アンナ・ケンドリック(Anna Kendrick)演ずる)会計士のダナ・カミングス(Dana Cummings)との関係が、ハリウッド映画の公式であるところの、身体障害者が、こうして2人ずっと幸せに暮らすことになりました、的な諸ロマンスはさせてもらえない点だ。・・・
⇒それ以前に、あえて言えば、ケンドリックは(ケネディ前駐日米大使によく似ている(失礼))セックスアピールに乏しい俳優であり、重要な役どころであるだけに、この映画を観ている時に欲求不満が募ったものです。(太田)
(続く)
映画評論49:ザ・コンサルタント(その4)
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