太田述正コラム#9095(2017.5.15)
<米国のファシズム(その3)>(2017.8.29公開)
19世紀において、ユンカー達(Junkers)と呼ばれた、金持ちのプロイセンの貴族達が政治的に興隆したが、彼らは、「他の諸人種に対する憎しみ」と「軍一味への忠誠」によって駆動されており、その目標は、彼らの「文化と人種が世界を睥睨する(stride)」ようにすることだった。
⇒ユンカー論については、「二つのドイツ」シリーズで行うとして、このくだりだけからでも、ウォレス副大統領が、「ナチ達」と言いたいところを、ぼかすために、「ユンカー達」を持ち出したことは明白です。
時代がはるかに下った、ベースヴィッチの筆致と瓜二つですね。(太田)
私の祖父は、米国のファシスト達と他国の人殺しの独裁主義者達(murderous authoritarians)との大きな違いは認めていた。
米国の<その>輩(breed)は暴力を必要としない、と。
人々に嘘をつくことの方がはるかに簡単なのだ、と。
彼らは、「公共情報の諸経路(channels)に毒を投じる」、と彼は記した。
彼らの「問題は、公衆にどのように真実を提示するのが最善かなどでは決してなく」、自分達により多くのカネと権力を与えさせるべく、「公衆を欺くためにどのように諸報道を利用するか」、なのだ、と。
実際、彼らは、市民達の間で亀裂を起こさせるべく、諸嘘を戦略的に用い、亀裂<が生じると、それ>を独裁主義的な諸弾圧(crackdowns)の口実とした。
「真実と事実の意図的な捻じ曲げ(perversion)」を通じて、「彼らの諸新聞とプロパガンダは、不統一のあらゆる割れ目を注意深く醸成した」、と彼は述べた。・・・
独裁君主的な連中(autocrats)は、「事実に立脚しない諸疑惑を振りまくことを流行らせる」、とも。・・・
⇒ここは、すぐ後の記述と併せ読めば、ウォレス副大統領が、あたかも米国内の話であるかのように装って、実は、米国の対外政策批判を行っている、と解すことができます。「米国の<その>輩」や「彼ら」は、「米国」そのものだ、ということです。(太田)
では、連中の究極の目標は、一体何なのだろうか?
「彼らのペテン(deceit)の全てが向けられているところの、彼らの最終目的は、政治権力を握り、国家の権力と市場の権力を同時に用いて、普通の市民(common man)を恒久的に服従状態(subjection)に留め置こうとするところにある」。・・・
彼は、有名なことだが、1942年に、戦後、地上で最も偉大な国である米国が、世界に君臨する(dominate)ところの、「米国の世紀」にしようと叫ぶ保守派に反駁した(rebutted)。
⇒ヘンリー・ルース批判をウォレス副大統領が、(大戦の真っ最中に)あからさまに行った・・これについても、時代がはるかに下って、ベースヴィッチが同じことをやっていましたね・・というのは、驚きです。
ローズベルトの四選目の時に、ローズベルト自身の意向に逆らう形で、民主党員達が、多数で、ウォレスを再度副大統領候補にすることを否定し、候補をトルーマンに差し替えた(ウォレスの英語ウィキペディア前掲)のは、このこと一つとっても当然でしょう。
改めて、ローズベルト自身が、最後・・文字通り死・・まで、ウォレスを信任し続けた理由の方が謎です。(太田)
ナンセンスだ、と私の祖父はその演説で言った。
我々米国人達「は、ナチ達同様、支配人種(master race)でも何でもない」、と。
彼は、平凡な(ordinary)人々が、ちゃんとした(decent)諸仕事を持ち、(諸労組へと)組織され、少数者のための特権ではなく、「一般福祉」にコミットした、答責性ある政府、及び、自分達の子供達のための(「現実の世界についての諸真実」を教える)ちゃんとした諸学校、を求め、自分達の諸権利のために立ち上がり、戦うところの、「普通の市民の世紀」にしようと呼び掛けた。
彼は、民主主義は、「人間達を一番、カネを二番にし」なければならない、と、その1944の論考の中で述べた。・・・」
3 終わりに
ウォレス副大統領は、「1944年6月20日に蒋介石との会談のために重慶を極秘訪問(この時期、国共合作が一時崩壊の危機に瀕し、その様子見のために送り込まれた)した際、第5航空軍司令官下山琢磨中将が山本五十六乗機撃墜(海軍甲事件)の報復として、ウォレスの乗機を撃墜することを画策した。支那派遣軍総司令部が極秘に入手したスケジュールに基づいて偵察機を飛ばしたが、乗機らしき航空機は姿を見せず、撃墜はかなわなかった。入手したスケジュールが実は偽物だったと言われている。」(ウォレスの日本語ウィキペディア前掲)
一体、我々日本人は、この仇討ちが失敗に終わったことを、悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか、悩ましいところですね。
(完)
米国のファシズム(その3)
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