太田述正コラム#9273(2017.8.12)
<イギリス論再び(その2)>(2017.11.25公開)
 「イギリス性について奇妙なことは、それが、<我々イギリス人にとっても、>良く知っていることでありつつも、イラつくほど掴みどころがないことだ。
 <イギリス性についての>諸叙述中、最も有名なのは、1941年のロンドン大空襲の最中にジョージ・オーウェルによって書かれたものだ。
 「どの外国からイギリスに戻ってきても、君は、すぐに、異なった空気を吸っている感覚を覚える」、と彼は記した。
 これは、現在でもそうあり続けている。・・・
 その数行後で、オーウェルは、異なった種類のイギリス性の喚情的な生き生きとした描写を行っている。
 「ランカシャーの諸鉱山町の木靴のカタカタという音、グレート・ノース・ロード(Great North Road)<(注2)>、公共職業安定所(Labour Exchange)群の外の行列群、ソーホー(Soho)<(注3)>のパブ群内のピンボール台(pin table)群のガチャガチャという音、秋の朝々に霧々の中を<教会での>聖体拝受式に行くために自転車に乗っている年寄りの女中達」、と。
 (注2)イギリスのロンドンとスコットランドのエディンバラを南北に結ぶ、英国の旧幹線街道。現在はA1でもって取って代わられている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Great_North_Road_(Great_Britain)
 A1。
https://ja.wikipedia.org/wiki/A1_(%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%81%93%E8%B7%AF)
 (注3)「ロンドンの・・・ウエスト・エンドの一角をなす。20世紀中のソーホーは性風俗店や映画産業施設が並ぶ歓楽街として栄えた長い歴史をもつ。1980年代初頭以降、当地区は高級レストランやメディア関連企業が立ち並ぶファッション街へと大きく変貌し、性産業の店舗はそのほとんどがソーホーから姿を消した。今では、おしゃれなお店が密集し、ゲイバーやレズビアンバーが連なる賑やかなゲイエリアとしても有名」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%9B%E3%83%BC_(%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3)
 当時の我々の国家的アイデンティティの文字によって描かれた写真として、これ以上のものは、恐らくありえないだろう。
 しかし、これらのことの殆ど全てが完全に廃れてしまっているという事実から誰も逃れることはできない。
 何十年か前には、人々は、ビートルズ(Beatles)、サンデー・ロースト(Sunday roast)<(注4)>、そして、赤い電話ボックス群、について、語ったかもしれない。
 (注4)「イギリスの伝統的な食事で、日曜日(通常正午過ぎの昼食)に供され、ローストした肉、ジャガイモに、ヨークシャー・プディング、ファルス、野菜等の付け合わせとグレイビーから成る。」
https://uwl.weblio.jp/word-list
 「ヨークシャー・プディング (Yorkshire pudding) は、<イギリス>のヨークシャーで生まれた・・・家庭料理のひとつ。いわゆる菓子の「プリン」(プディング)ではなく、ふわふわもちもちとしたシュークリームの皮のようなものである。ローストビーフなどの肉料理のつけあわせとしてよく用いられ、ホースラディッシュソースやグレイビーをかけて食べる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
 「ファルス<(farce)>・・・は、肉や魚、野菜などの中に別の食材を詰めた料理」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%B9_(%E6%96%99%E7%90%86)
⇒茄子等のファルスやヨークシャー・プディングならぬプディング(プリン)は、カイロの小学校の昼食の記憶を、ローストした牛肉(ローストビーフ)と温野菜の付け合わせとグレイビーはロンドンの国防大学の昼食の記憶を、ただちに蘇らせます。
 でも、いつの間にか、後者(1988年)すら、遠い遠い昔のお話になってしまいました。(太田)
 しかし、今日のティーンエージャー達にとっては、ビートルズは大昔の物語だし、赤い電話ボックス群は概ね廃れてしまっているし、サンデー・ローストでさえ過去のものになりつつある。」(D)
(続く)