太田述正コラム#9431(2017.10.30)
<定住・農業・国家(その13)>(2018.2.12公開)
 (7)市場
 「<著者の別著>は、野心的な国家計画のしばしば見えていない諸費用を文書化している。
 著者は、国家群が、いかに社会的世界を読み易いものにすることを求めるか、そして、いかに読み易さの追求が社会に対する、費用が嵩み、しばしば破滅的な諸介入をもたらすか、を描写する。
 歴史から採られた数多くの諸事例を通じて、国家の計画者達のトップダウンの知が、地域コミュニティ群の混血的な(metis)知、ないしは、暗黙知(tacit knowledge)、と対照される。・・・
 著者は、彼が、国家のように物事を見ることの諸欠陥、と、資本主義が均一化を生み出す傾向、との間に、強い諸類似性(parallels)を見ていることをはっきりさせている。
 「大規模な資本主義は、均一化、同質性、碁盤の目、壮絶なる(heroic)単純化、の手先性において、国家と同じだ。
 違いは、資本家達にとっては、単純化が金儲けにつながらなければならないという点だ。
⇒大昔に書いた拙著『「日本型経済体制」論』の中で、私は、一般の(日本以外の先進)社会は、固い組織と市場とを車の両輪としているという趣旨の指摘をしたところですが、それは、専制主義の軍事活動を本業とし、個人主義の農業・余暇活動を副業とする形で始まった、アングロサクソン文明が念頭にあったからこその指摘だったわけです。
 この指摘に近いことを、米国の識者たる書評子が唱えていることは興味深いものがあります。(太田)
 利潤動機は、単純化と周辺視野の喪失(tunnel vision)のレベルにおいて、どちらかといえば、ドイツの初期の科学的林学よりも壮絶なるもの<(注22)>を強いる。
 (注22)原文は’more heroic that the early scientific forest of Germany’だが、thatはthan、forestはforestry、の、それぞれ、ミスプリであると判断した。
 ちなみに、「林学教育の始まり<、すなわち、>林業技術者教育の最初の方式は、いわば親方学校とも云うべきものであった。マイスタースクール、マイステルシューレであり、最初ドイツで1763年に始まっている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E5%AD%A6
とされる一方で、「林学は森林学ではなくて林業学であ<って、>・・・林学の発生は、ドイツの官房学(カメラリズム)にある。官房学をどのような意味に取るかは難しいが、大雑把に言って行政学であり、その中心は財政学のようだ。つまり国家経営の方法論<の一環>なのである。」
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2012/11/post-10e2.html
ともされていて、両者の関係がよく分からないが、追及しない。
 いずれにせよ、林学は、国家による地域コミュニティ群の林業的慣習に対する、科学の名の下での法的規制の押し付けを通じて発展したものであって、その中心が、[森林面積が国土の3分の1近くを占める]ドイツであったことは間違いないようだ。
https://chrislang.org/2000/11/01/blinded-by-science-the-invention-of-scientific-forestry-and-its-influence-in-the-mekong-region/
http://www.transfor.uni-freiburg.de/download/kristie_derkson_EFC2007.pdf ([]内)
 この点で、私が、現代の社会工学の諸失敗から引き出す諸結論は、それらが、官僚制的均質性、にと同様に、市場駆動による標準化、にも適用可能なのだ。・・・
 ・・・<但し、>市場群は均質性という結果をもたらしうるけれど、市場過程は創造的諸実験や革新の駆動者でもある。
 面白味のない標準化ばかりになると、市場群は、エントレプレナー達に対し、風変りで尋常ならざるように見える諸生産物を創造するインセンティヴを提供する。
 過程としての市場群は、確かに容赦なく見えるし、市場の場の大騒ぎの結果貴重なものの多くが失われうる。
 しかし、日常的経験は、市場群が、国家の計画者達や官僚達に比べて、より、自己矯正能力がある傾向があることの、結構、説得力ある証拠を提供してくれているのだ。」(C)
⇒これが、米国人識者の限界ってやつですね。
 トランプが引っ掻き回しているのを見れば一目瞭然ですが、米国の政府・・もちろん軍を含む・・は固い組織であって文字通りトップダウンで運営されていますし、米国の企業も、トランプ自身のそれはもちろんのこと、殆ど全てが固い組織でトップダウンで運営なされているというのに、それには目を瞑って、もっぱら市場の方だけを称賛しているのですからね。(太田)
(続く)