太田述正コラム#0507(2004.10.19)
<ブッシュ・MBA・ケースメソッド(その1)>

 ニューヨークタイムスが社説でケリーへの投票を呼びかけ(http://www.nytimes.com/2004/10/17/opinion/17sun1.html?pagewanted=print&position=)
、ほぼ同時に系列誌のニューヨークタイムスマガジンに、ブッシュを徹底的にこきおろす論考(http://www.nytimes.com/2004/10/17/magazine/17BUSH.html)が掲載されました。
 私がかねてより、ブッシュに比べてケリーを評価しつつもブッシュ再選の可能性が高いと見てきたことは、読者の皆さんにはよくお分かりのことでしょう。
 しかしその私でさえ、ニューヨークタイムスの人格攻撃的なブッシュ批判、特に後者の論考の長ったらしさ、には辟易したというのが正直なところです。
 しかし、ブッシュがハーバードMBA(の劣等生?)としてケースメソッドを体験したことが、ブッシュの意志決定を柔軟性の欠けたものにしたのではないか、というタイムスマガジン論考のくだりは大変面白いと思いました。
 ブッシュは、私がスタンフォードビジネススクールを卒業した頃にハーバードビジネススクールを卒業しています。(私は1976年卒、ブッシュは1975年卒)
 当時、(そして恐らく今も)スタンフォード大学はハーバード大学に敵愾心をもやしていました。老舗で場所的には米国の東海岸でイギリス・欧州志向のハーバードに対する、新興の西海岸のアジア・太平洋志向のスタンフォードというわけです。
 しかし、当時も、そして現在も学部レベル(undergraduate)ではなかなか逆転とはいきません。(優劣を比較する指標は色々あるが、入学難易度で言うと、現在ハーバード5位、スタンフォード7位となっている(http://www.princetonreview.com/。10月8日アクセス)。)
 しかし大学院レベルでは、当時、(後にアグネス・チャンがタレント業をお休みして卒業した)School of Education は全米1位とされていましたし、ビジネススクールは、私が米国に留学した時点ではハーバードに肉薄した2位で、留学中に初めてハーバードを抜いて1位になり、話題をよびました(ただし順位は、総合指標)(注1)。

 (注1)1974年の人事院制度での留学生仲間の他省庁のH氏はスタンフォードビジネススクールには不合格でハーバードへ、私はハーバードビジネススクールには不合格でスタンフォードに行った。私にしても、そして恐らくH氏にしても、当時の英語検定試験(TOEFL。Native speaker には課されない)にせよビジネススクール入学希望者向けテスト(当時ATGSB、現在GMAT)にせよ、本来ならば到底入学を許されないみじめな点数しかとっていないが、にもかかわらず入学させるところ、かつまた合格基準が学校によって異なるところ、がいかにも米国の大学らしいと感じ入った記憶がある。

 ところが、その後のハーバードビジネススクールの「転落」ぶりは目も当てられません。
 最新のレーティングは次のとおりです。
 入学難易度はスタンフォードが1位、ハーバードが5位。教育の質はスタンフォードが1位、ハーバードは上位10校に入っていません。卒業後のキャリアはスタンフォードが2位、ハーバードはやはり上位10校に入っていません。
 (以上、データはプリンストンレビュー上掲による。)
 これは、ハーバードビジネススクールは、昔取った杵柄でまだ比較的優秀な学生を集めてはいるものの、ろくな教育をしていないため、卒業生の所得が低い、ということを意味します。このまま行けば、ハーバードは入学難易度でも圏外に消える日はそう遠くはなさそうです。
 この原因として思い当たることと言えば、米国でハーバードビジネススクールほぼ一校のみがケースメソッドを100%近く用いてMBAの教育を行ってきたことです。

(続く)