タイトル | : コラム#1776(未公開)のポイント |
記事No | : 407 |
投稿日 | : 2007/05/22(Tue) 22:20 |
投稿者 | : 太田 述正 |
コラム#1776(2007.5.22)「南北戦争後の米国」のさわりの部分をご紹介しておきます。 ・・ ・・辞書をひくと、米国の金ピカの時代・・について、「南北戦争後約30年間にわたる米国の好況時代」であると記されています。 これは全くの間違いとは言えませんが、いささか首をかしげざるを得ません。 それは同時に、ロックフェラー・・、カーネギー・・(コラム#1581、1575)、モルガン・・、グールド・・、やスコット・・らを揶揄して名付けられた泥棒貴族・・達の時代でもあったからです。 米国のジャーナリスト・・にして歴史家のビーティー・・の新著、・・の紹介を兼ね、もう少しこの時代を掘り下げてみましょう。 私は、米国の「本質」が浮き彫りになってくると思うのです。 ・・ 当時のヘイズ・・大統領・・は、離任後、密かに、「これは、人民の人民による人民のための政府ではもはやない。これは企業(corporations)の企業による企業のための政府だ。」・・ ・・ この時代に米国では鉄道が急速に全米に普及した。 ・・ 連歩政府は、・・<広大な>土地を鉄道会社に供与し、この土地を元手に鉄道整備を促進させた。この過程で鉄道会社の関係者達と政治家達が大儲けをした。 例えば、・・ペンシルベニア鉄道のオーナーのスコット・・は、ヘイズを大統領へと押し上げる等、政治家連中に合法的非合法的に票やカネを提供し、その見返りに連邦補助金を含むありとあらゆる便宜供与を受けた。 そのスコットは、鉄道網が伸び、利潤が増えると逆に社員への給料を減額した。・・社員達が抗議のストを打つと、スコットは政治家達を使って軍を投入し、このストを粉砕した。
金ピカの時代は、南北戦争・・において一旦確立されたかに見えた人種平等の精神が、再び踏みにじられた時代でもあった。 ・・上記ヘイズ大統領が占領状態にあった南部から連邦軍を引き揚げてから状況は悪化していく。 黒人に対する暴力が頻発するようになるのだけれど、せっかく元黒人奴隷達を助けるために連邦憲法修正第14条及び第15条・・が導入されていたというのに、連邦政府がこれら憲法条項に基づいて黒人を保護するために介入する権限を、連邦最高裁は制限してしまったのだ。 ・・ それと同時に、連邦最高裁は、カネは言論の一形態であるとして、修正憲法第14条のデュープロセス(正当な手続き)規定を企業に適用することを認めた・・。その結果、企業は連邦規制を受けないことになり、また、企業に苦しめられる市民を連邦政府が保護することも不可能にした。 ・・ こうして、金ピカの時代に、米国の貧富の差は極端に拡大し・・、金持ちは贅沢三昧に暮らす一方で、貧者は想像を絶する惨めな状況に置かれた。 ・・ 米国が、ほとんど違いのない二大政党によって仕切られるようになったのもこの時代であり、大衆は自分達の意見を政治に反映する手段を基本的に奪われた状態となった・・。 ・・ しかし、この金ピカの時代に、米国の産業化は大いに進展し、おかげで自由世界は第一次世界大戦に敗れずに済んだ可能性が高いし、第二次世界大戦に敗れずに済んだのは間違いなくそのおかげであることは皮肉な限りだ。 遺憾ながら現在、米国は再び金ピカの時代を迎えている。 最高裁に保守反動派の権化のスカリア・・判事あり、行政府にブッシュの軍師の悪漢ローブ・・あり・・。
<さて、私の>感想<です。> イラクの泥沼化と米「帝国」衰亡の予感から、米国の知識人が、いかに深刻な自省モードに入っているかが、ビーティーのこの本からも分かりますね。 しかし、ビーティは触れていませんが、独占禁止法制や労働保護法制の整備、州際通商委員会・・の設置に始まる企業規制法制の整備、民主党の反市民権政党から親黒人政党への大転換、ロックフェラーやカーネギーによる慈善事業の展開(コラム#1575)等、米国は金ピカの時代の悪弊を自ら一定程度是正してきたこともわれわれは押さえておく必要があります。 ただ、私は、米国の始まりがジェームスタウンであったこと(コラム#1763)を思い起こせば、金ピカの時代は、米国の「本質」が過剰に露出した時代に過ぎなかったのであって、基本的に米国の人々は、常に金ピカ的な時代を生きてきたのである、と考えています。 問題は、米国のビーティら知識人が、そこまで徹底して米国の国の在り方を反省していないところにあります。 第二次世界大戦が、自由世界と反自由世界の戦いであった、という史観を、少なくとも対日戦に関しては克服することなくして、それは不可能であるということを、ここで再度強調させてください。
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