【質問】 以下のような,自衛隊の戦力は見せ掛けだけのもので,実質戦力はゼロに等しい,とする見解についてはどうですか?
まず陸上装備だが,対戦車機動攻撃力で見ると,千社の数こそ日本が上回っているが,攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない. 仮に戦車と攻撃ヘリコプターの戦力比が価格比とイコールであると言う,いささか乱暴な仮定を置けば,日本の対戦車攻撃力は英国の4分の3にしかならない(計算方法は次の通り).
(1) 日本が調達している最新の戦車である90式戦車の1997年度単価は935,741万円であり,最新の対戦車ヘリコプターAH-1Sの1998年度単価は486,600万円である.
(2) この価格で,日本および英国の現有戦車と対戦車ヘリコプターを買いかえるとしたら,それぞれいくらかかるかを計算する. 日本: 90機×4866+1050両×935.741=1420468.050(単位:百万円) 英国:269機×4866+ 627両×935.741=1895663.607
(3) 最後に,この経費の額と戦力が比例するものとして,両国の比率を計算する. 1420468.05/1895673.607=0.75
他方,装甲機動防御力を見てみると,装甲偵察車,装甲歩兵戦闘車,装甲車の合計が日本は940両であるのに対し,英国は2907両と3倍も保有している.(15)
結局,日本の陸上兵力は,攻撃力はそこそこあるが,兵員の損耗を防止する努力をハナから怠っていることになる.「見せ金」たる自衛隊の面目躍如というところか.
次に海上装備である. 人目見て分かることは,日本が,空母や揚陸強襲艦〔原文ママ〕を潜水艦等の攻撃から守ることを主眼とする駆逐艦や,警戒監視ないし警察行動を担うフリゲート艦の隻数だけはやたら多いが,肝心の空母や揚陸強襲艦といった攻撃用の艦艇を全く持っていないことである. しかも,「航空」の中の対潜ヘリコプターのところを見ると,対潜ヘリコプターの数も英国より少ない. 対潜ヘリコプターの大部分は艦艇(駆逐艦やフリゲート艦艇)に搭載されて運用されるが,対潜ヘリコプターの数が少ないということは,駆逐艦とフリゲート艦の隻数は多くても,その対潜水艦作戦能力ないし哨戒能力が英国よりも劣っているということを物語っている. つまるところ,日本の海上兵力は,船の数だけは揃えているが,蜃気楼のようなもので,実態は殆ど何もないと言っても過言ではない.
最後に航空装備である. 日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない.(16) しかも,日本の戦闘機パイロットは,燃料費を節約するため(!),英国の3分の2の時間しか訓練していない. まことにお粗末な限りである. 他方,英国の軍人が決まって嗤(わら)うのが,日本の保有する固定翼対潜機の80機(かつては100機だった!)という数の多さだ. なんと英国の4倍近い. この数は,米海軍の固定翼対潜機(空母搭載の小型固定翼対潜機を除く)244機の3分の1にもなり,堂々世界第2位である.(17) 固定翼対潜機は陸上の飛行場から運用するが,いかに日本が排他的経済水域を設定できる沿岸200海里水域が広い海洋大国だとは言っても,明らかに固定翼対潜機の持ち過ぎである. 攻撃ヘリコプターや対潜ヘリコプターの少なさについてはすでに触れた. 要するに,現代の軍事力の中心が航空兵力であることに思いをいたせば,日本の航空兵力は,(突出している固定翼対潜機は別として)あまりにも弱体であると言わざるをえまい.
以上は,あくまでも数だけの議論である. 輸出もできず,国内でも競争に晒されていない日本の装備品は,価格が高いだけでなく,米国等の装備をライセンス生産しているものはともかくとして,日本で独自開発した装備品の大部分の性能に疑問符がついていること――すなわち,仮に輸出が解禁され,それともあいまった価格を下げることができたとしても,他国に買ってもらえるものはほとんどないこと――も忘れてはなるまい.
〔略〕
統幕をいくら強化しても,所与の防衛力の運用が,より効率的・効果的に行われるだけのことであり,最初から陸・海・空防衛力の統合的部分,共同部分に手抜きがあればどうしようもない. 陸・海・空の共通部分(人事制度等)に欠陥があっても同様である. 内局は,これら統合的部分,共同部分および共通部分のあり方を所管しており,内局キャリアが仕事を全くと言っていいほどしていないため,統合的・共同的側面において,自衛隊では徹底的に手抜きが行われており,トータル・システムとしては,自衛隊の能力はゼロに等しいと思ったほうがよかろう (このことを説明することは,防衛上の秘密のベールがあって容易ではないが,2節の「非常識がまかり通る防衛庁」中の「ITをめぐるドタバタ劇」から推察いただけるだろう). 太田述正著『防衛庁再生宣言』(日本評論社,2001/7/5),p.38-42
なお,同書によれば兵器機材の数字は「ミリタリー・バランス 2000/2001」からのものだとのこと.
【回答】 まず陸上自衛隊について.
>攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない.
英陸軍の攻撃ヘリの数は,TOW搭載可能なものの兵員輸送用にも使われるリンクスや観測用のガゼルを全部ひっくるめた数字ですな. それに対して陸自はコブラだけの数を比較している.
1999年発行の英雑誌Air Force Monthly別冊 "NATO Air Power"のUKの部分によれば,攻撃ヘリとしても使われるリンクスは124機に過ぎず,269機がどこから来ているのか不明です. ガゼル162機を足せばその数に近づきますが,これは意味がありません. なお2000年7月の同誌記事によると,記事執筆時点で英軍に引き渡されているアパッチはわずか9機.うち飛行隊配備はたったの4機です. 2001年の「英軍の攻撃ヘリ」にアパッチはせいぜい1個飛行隊10機ていどしか入れられません. 当時の英軍攻撃専用ヘリはたったこれだけです.
BMP in FAQ BBS
リンクスというのは本来汎用ヘリです.正確には武装ヘリというと思います. 攻撃ヘリ並にTOWを搭載してもスペック的に同じでも,実戦的な強さという意味では攻撃ヘリの方が圧倒的に上です. そういう武装へりと攻撃ヘリを単純比較というのは??という感じがします.
この文章の中で日本の攻撃ヘリの数が少ないという記述がありますが,世界中でアメリカ,ロシアを除いた場合,AH1Sを90機装備してるのは決して少なくなく先進国レベルでは平均的な数だと思います.
ヒロ in FAQ BBS
この人によると,英国の攻撃ヘリ269機,とのこと. 手元の『戦闘機年間2005-2006 イカロス出版』をあたって内訳を見てみる.
アパッチAH1(AH64D) 67機(予定) リンクスAH7 89機 ガゼルAH1 120機 計 276機
端数は違うが,だいたいこんなところを想定してるんでしょう. ここでマズイのは,ガゼルAH1を戦闘ヘリとして計上してること. 英国陸軍に納入されたタイプのガゼルAH1は,ATM運用能力を持たず,武装はロケット弾と機関砲のみ. そのため,現在は偵察・観測ヘリとして運用されており,通常は兵装を搭載していない. すると,攻撃ヘリといえるのは,156機.(これは調達予定の67機を含んでの数字) 引き渡されたアパッチは,まだそれほど多くないので,戦闘ヘリの合計は100〜120機程度だろう.
では自衛隊の攻撃・観測ヘリを見てみる.
アパッチAH-64D 若干(60機調達予定) コブラAH-1S 86機程度 計 150機(調達予定を含む) 加えて (観測ヘリ) OH-6D 145機 0H-1 25機(対空攻撃能力を有する)
戦闘ヘリは,調達予定を含め150機.アパッチは2002年に8機が予算化されているが,調達は進んでいない. 実質,戦闘ヘリは90機と見てよい. これは英国と比べて,大幅に劣るとはいえない. また,観測ヘリの数は英国よりもずっと多い(機数で比べれば40%多い)
次,陸上戦力. 戦車の保有数は,英国の二倍(陸自約1000 英国約550)は,まあ良いとして,英国の装甲車の保有数が,日本より多いのは当たり前. イギリス軍の防衛計画は,フォークランドのような大きな一つの紛争に対処,あるいは,コソボなどの中規模な紛争二つを同時に対処することを目的としている. 簡単に言うと,外征型軍隊ということ. したがって,仮に主力戦車の数を削ることになっても,より展開しやすく,紛争地域の治安維持に使いやすい装甲車をそろえるのは当然だろう. 加えて,90年代始めまで北アイルランド紛争を抱えていたので,装甲車の数が必要だったことも考えると良い.
しかし,陸上自衛隊は,基本的に本土決戦のための部隊であり,英国とは質が違う. (最近は対テロにも乗り出してるけど) ここでは,展開性や治安維持に使える装甲車よりも,より重武装・重防御で敵を正面から打ち破る力を持つ主力戦車の方が重要となる. それで主力戦車に比重が置かれる. これをして,陸自が劣っているというのは,間違いだろう.
(まず,外征型の英軍と本土決戦型の陸自と比べるのが,間違いのもとだろう) (それから英の主用小銃は,欠陥銃ということも,付け加えておかねばなるまい)
次,海上自衛隊について
>肝心の空母や揚陸強襲艦といった攻撃用の艦艇を全く持っていないことである.
海上自衛隊のドクトリン上,空母も揚陸艦も必要ないのではないだろうか. 英国のように,大洋の向こう側に植民地を持っているわけでもなく,アメリカと共同して,紛争に介入するわけでもないのだから. 簡単に比べると以下の通り.
海上自衛隊 人員約4万4000名 イージス艦4隻,護衛艦8隻,汎用護衛艦約20隻,潜水艦16隻等(ディーゼル潜)
英海軍 人員4万600人 軽空母3隻,揚陸艦4隻,駆逐艦8隻,フリゲート18隻,潜水艦15隻等(ミサイル原潜4隻を含む)
まぁ,互角と言ったところ. 日本近海防衛を目的とする海自と,外征型である英海軍の特徴を表している,くらいのものだろう.
>しかも,「航空」の中の対潜ヘリコプターのところを見ると, >対潜ヘリコプターの数も英国より少ない.
外征型の軍隊である英国海軍は,陸上機の支援が期待できない場合があるので,艦載の対潜ヘリを多く持つ. しかし,近海作戦主眼の海自は,P-3Cのカバーがあるので問題ない.
というより,だから海自の対潜ヘリが少なく,逆にP-3Cが多いと考えるのが自然である.
極東の名無し三等兵 (協力:ハリアーに関して:井上@Koji.net,JSF)in mixi支隊
>イージス艦4隻,護衛艦8隻,汎用護衛艦約20隻,潜水艦16隻等(ディーゼル潜)
正確にはヘリ無しのDDG(こんごう・はたかぜ・たちかぜ)が8(あたごが就役すれば+1)ヘリ3搭載のDDH(はるな・しらね)が4,ヘリ1搭載のDD(なみ・あめ・きり・ゆき)が31(練習艦3隻除く) で,対潜ヘリ枠はSH-60換算で都合43となる訳だ(あたごはどうせ乗せないから無視)
一方の王立海軍 ヘリ1搭載の42型が8,同じくヘリ1搭載の23型が14,ヘリ2搭載の22型が4,ヘリ6搭載のインヴィンシブル級が3,ヘリ12+6搭載のオーシャンが1. 以上,対潜ヘリ枠はリンクス換算で54とシーキング/マーリン換算で12となる.(23型はマーリン搭載可22型はマーリン搭載時定数半減42型は搭載不可インヴィンシブルとオーシャンは不明) ただし,オーシャンを純然たる対潜戦力に加えるのはどうかと思うし,インヴィンシブルとて既述のように陸軍と空軍の運び屋と化してるので,これを除外した数も一応示してくとたったの30. インヴィンシブルを加えても48と,対潜プラットフォームの数は実は大したことないんだよね. ま,22型が多数現役だった頃はもっと多かったんだけど.
それと卵とバスケット論というのがあって,英軍は見ての通りインヴィンシブル一隻を沈められたらそれだけで対潜戦力がガタ落ちする(対潜だけじゃないが)リスクを抱えている. この点,海自の場合はきり型以降の汎用DD20隻でヘリ格納庫のスペースを2機分確保しているので,仮にDDHが沈められたとしても,対潜プラットフォームを残ったDDだけで最低限確保することが出来る.(あたご型が就役すればマーリンクラスの大型ヘリプラットフォームも確保可能)
も一つ指摘しておくと,22型も23型も42型も新型の45型もUSMの類を全く装備していない, 海自は地方隊のDEはおろか,ヘリ空母然とした16DDHにまでアスロック標準装備なのにだ. 排水量に余裕がないのは分からんでもないが,ちょっとそれはどうかと思うぞと.
以上を勘案すれば,海自とロイヤルネイビーのASWに対する姿勢がどのようなものであるのかは自ずと見えてくる筈. まぁそもそも,リンクス/シーキング/マーリンとシーホークを一緒くたに対潜ヘリなんて纏めちゃうのもどうかと思うが.(マーリン>シーキング≒シーホーク>リンクスの順でそれぞれ5トンぐらいの重量差がある)
メッサー=ハルゼー in mixi支隊
英軍の対潜ヘリ現存数について,最新のものではありませんが,ミリタリーバランス2004-2005が手元にありますので書きます. ちょっと数字の読み方がいまいちわかんないのでそのまま写します.
88 seaking(42 HAS-5/6, 33 HC-4,13 AEW[2Mk7,11Mk2]) 36 Lynx Mk3 6 Lynx Mk7(inclin Marinesentry) 23 Lynx Mk8 38 EH-101 Merlin Mk1 8 Gazelle AH-1(inclin Marinesentry)
あと,空軍にもMerlinHC4が22機,seaking HAR3が23機あります. 参考になればと思います.
唯野 in mixi支隊
上記の中から,とりあえず対潜型だけ抜き出すと シーキングが42機 リンクスが36+23機 マーリンが38機 合計139機か?
連中のタイプ分けはいまいちハッキリしない.
もひとつの70機という数字で思い当たったのが,SH-60J陸上型の存在. しかし陸上型な筈のシリアルナンバーを付けた機体が護衛艦のRAST上に鎮座してたり,明らかにRAST用拘束具が付いてたりと更に混乱. 陸上型=RAST未対応がガセなのか,シリアルナンバーが間違ってるのか.
メッサー=ハルゼー in mixi支隊
シーキングのうちHC.4は輸送型だから,ASW戦力からは除外していいでしょう. ガゼルも攻撃ヘリの代用品でASWヘリじゃないですね. 他にもいろいろ混ざっているので,純粋にASW戦力といえるのは,
・シーキングHAS.5 ・リンクス(海軍型のみ) ・マーリンHM.1
だけでしょう.
井上@Kojii.net in mixi支隊
最後に航空装備である.
>日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない
とりあえず,作戦機を比べてみる.
英国航空兵力(海軍航空隊を含む) トーネードF3 113機 ハリアーGR7/9 72機 トーネードGR4 145機 ジャギュア 60機 計 390機 (簡略化のため,2003年より引渡しが始まったタイフーンは無視します) (まだ,大した数は揃ってないだろうし)
航空自衛隊 F-15J/DJ 203機 F-2A/B 94機 F-4EJ改 90機 計 387機
ここで,トーネードGR4とジャギュア,ハリアーGR7/9は攻撃機であり,制空戦闘機と言えるのは,トーネードF3 113機と,まだほとんど数が揃っていないタイフーンのみである. しかし,空自の機体387機は,すべて戦闘機として使用できる. F-4EJ改は古いので除く――といっても電子機材などはF-16級にアップグレードされているので侮れないのだが――としても,約300機の戦闘機(F-2支援戦闘機を含む)がある.
攻撃面に関しては英国は充実しており,トーネードGR4 145機を中核とし,ハリアーGR7/9 72機,ジャギュア 60機がこれを補完する. 計277機である. 自衛隊は,F-2A/B 94機,F-4EJ改 90機,が攻撃機として用いられる. 計180機であり,やや少ない.したがって,対地攻撃能力は英国に比べ劣っている. しかしながら,F-2A/BはASM4発の搭載が可能であり,F-4EJ改にも複数のASMが搭載できため,対艦攻撃能力は英国に比べ圧倒的に高い. そして,空自の存在意義の一つは,敵の着上陸を阻止することであり,対艦攻撃である.
以上より,航空戦力に関しても,優劣つけがたく,それぞれ,国の環境に合致した戦力を整備している. 全体的に,ドクトリンの違いにより,編成や装備に違いが見られるが,自衛隊は英軍と比べ,大幅に勝っているわけではないが,劣っているとは言えない.
極東の名無し三等兵 (協力:ハリアーに関して:井上@Koji.net,JSF)in mixi支隊
1999年発行の英雑誌Air Force Monthly別冊"NATO Air Power"のUKの部分から引用します. 戦闘機は トーネードGR1/4が173機, F.3が112機, ジャガーが74機, ハリアーGR.7/T.1が85機の計444機. これの1/2.5ということは177機しか空自は戦闘機を持っていないと主張していることになります. 英海軍のシーハリアーFA2,35機を入れてもF-4EJやF-1,F-2を計算に入れず,F-15しか勘定に入れていないことになります.
BMP in FAQ BBS
まあ,統合的・共同的側面における欠陥の指摘に対しては,異論を差し挟む向きはないようだし,これはけっこう重要であることから,この点は考える必要があるのではないかと愚考します.
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